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来歴文書の書き方は揃っていない

農研機構のイネ品種データベースには「品種来歴文書」が入っています。 品種を育てた試験場が出した報告書を電子化したもので、 このサイトの親子関係の根拠は、ほとんどがこの文書です。

40本あまり読んできて分かったのは、この文書には決まった書き方がないということです。 ここにその違いを並べます。書き方の違いは、資料の読み方を決めるときに効いてきます。

いちばん多いのは、一文で続ける形

「越南15号は昭和21年に農林省農事試験場鴻巣試験地に於いて「水稲農林22号」を母とし、「水稲農林14号」を父として人工交配を行い、昭和22年にその雑種第1代種子を農林省出雲農事改良実験所に配布し」(ワカサ)

交配の年・場所・母・父・その後の移動を、句点を打たずに続けます。 母本と父本が「母とし」「父として」という語で書かれるのは、この形のときです。

見出しと説明に分ける形

短稈である 農林1号程度の短稈である。 穂長稍短い 農林1号よりは大であるが愛子2号、農林17号には及ばない。

ナツミノリ(東北58号)の特性欄です。 項目ごとに丸をつけて埋めていく書式に見えます。

項目の一覧だけで、文がない形

交配組合せ 「水稲藤坂2号」×「水稲農林1号」 交配年次及び場所 昭和21年農林省農事試験場 東北支場

ヤマセシラズ(東北63号)の来歴欄です。 「×」で結んであるだけで、母本・父本という語がありません。

慣例では「×」の前が母です。けれどこのサイトは語で書かれていないかぎり断定しません。 同じ試験場の5年違いの東北58号は語で書いているので、 書式が変わったことを理由に、書かれていないものを補うわけにはいきません。 これがこのページを作った一番の理由です。

漢数字で番号をつける形

一 熟期は「水稲農林20号」より晩いが「富国」より早く早生の晩に相当する。 五 耐倒伏性は「水稲農林20号」より弱く「水稲農林28号」程度である。

水稲農林42号(北海103号)です。一から七まで番号がついています。

括弧の中に数字が入る形

粒着はかなり良く、脱粒は難(1)である。 縞葉枯病に対しては普通日本水稲と同じ弱(9)である。

ヤマフクモチ(中国糯19号)だけの書式です。 1が強い側、9が弱い側の9段階と読めますが、文書の中に凡例はありません。 このサイトは数字の意味を断定せず、そのまま引いています。

年を西暦で書く形

「ふ系62号」は1954年青森県農業試験場藤坂試験地において

ムツコガネ(ふ系62号)だけです。 ほかの文書はすべて昭和で書きます。この文書には昭和が一度も出てきません。

序がつく文書、つかない文書

古い農林番号の文書には序がついています。序には2種類あります。

8区の体制

水稲の優良新品種を育成せんが為、本省においては昭和2年度より気候土質等により全国を8区に分ち、各区毎に1地方農事試験場を指定し経費の全額を交付して

水稲農林6号・8号・20号・北陸19号・農林19号の序です。 同じ文章が、途中の数だけ書き換えられて使われています。

序の年 文書 「既に」の数
昭和11年(1936) 水稲農林6号 10品種
昭和12年(1937) 水稲農林8号 18品種
昭和16年(1941) 水稲北陸19号 32品種
昭和18年(1943) 水稲農林19号 38品種
昭和18年(1943) 水稲農林20号 38品種

昭和18年の2本が同じ数です。数は報告書を出した年のもので、品種ごとのものではありません。

凶作防止試験

東北地方における農作物凶作防止の一対策として本省においては昭和10年より東北6県地方農事試験場を指定して経費の全額を交付し

水稲愛子2号(宮城・愛子試験地)と水稲遠野2号(岩手・遠野試験地)の序です。 8区の体制とは別の制度で、どちらの試験地も昭和10年に創設されています。

署名も違います。遠野2号は「昭和16年3月 農林省農政局」、 愛子2号は「昭和19年3月 農商省農政局」。 農林省と商工省が合併していた時期の署名です。 同じ序文が、3年の差で別の役所の名前で出ています。

厚みが6倍以上違う

文書 文字数
水稲藤坂4号(ふ系19号) 479
水稲農林50号(東北50号) 476
水稲農林42号(北海103号) 664
ミネアサヒ(中部17号) 2,330
タレホナミ(北陸60号) 3,139

農林50号は特性の記述が「耐病多収の系統である」で終わり、何の耐病性かを書いていません。 タレホナミは病害ごとに1行あります。

古いほうが薄い、という単純な話でもありません。 水稲農林1号の1931年の報告は食味の測り方まで書いています。 書いた場所と時期で、記録の密度が変わる。

母と父の書き方は4通りある

どの語で書くかは、資料の出どころで変わります。 このサイトが母本・父本を断定するのは、どれかの語で書かれているときだけです。

書き方 例 断定するか
「母とし」「父として」 ワカサほか、農研機構の来歴文書の多く する
「母」「父」 粒すけ(JATAFFジャーナル) する
「母親」「父親」 よさ恋美人(高知県農業技術センター) する
「両親として」 はるみ(全農 グリーンレポート) しない
「×」で結ぶだけ ヤマセシラズ(東北63号) しない
「AにBを交配して」 品種登録データベースの多く しない

「両親として」は2つを並べただけで、どちらがどちらかを言っていません。 語数の多い少ないではなく、別を書いているかどうかで分けています。

このサイトが決めていること

  • 書式が違うことを、中身を補う理由にしない。母父の別が語で書かれていなければ「記載なし」とする
  • 数字の意味が文書に書かれていなければ、意味を決めない。括弧の数字はそのまま引く
  • 薄い記録から多くを読もうとしない。書かれていないことは書かれていないものとして扱う

出典

  1. イネ品種データベース検索システム 交配系譜図「近畿9号(水稲農林6号)」 農研機構 次世代作物開発研究センター ・ 確認日 2026-09-10
  2. イネ品種データベース検索システム 交配系譜図「近畿15号(水稲農林8号)」 農研機構 次世代作物開発研究センター ・ 確認日 2026-09-10
  3. イネ品種データベース検索システム「北海86号(水稲農林20号)」品種来歴文書 農研機構 次世代作物開発研究センター ・ 確認日 2026-10-01
  4. イネ品種データベース検索システム「北陸19号(水稲北陸19号)」品種来歴文書 農研機構 次世代作物開発研究センター ・ 確認日 2026-10-01
  5. イネ品種データベース検索システム「北海79号(水稲農林19号)」品種来歴文書 農研機構 次世代作物開発研究センター ・ 確認日 2026-10-01
  6. イネ品種データベース検索システム「あ系3号(水稲愛子2号)」品種来歴文書 農研機構 次世代作物開発研究センター ・ 確認日 2026-10-01
  7. イネ品種データベース検索システム「遠系3号(水稲遠野2号)」品種来歴文書 農研機構 次世代作物開発研究センター ・ 確認日 2026-10-01
  8. イネ品種データベース検索システム「東北50号(水稲農林50号)」品種来歴文書 農研機構 次世代作物開発研究センター ・ 確認日 2026-10-01
  9. イネ品種データベース検索システム「北陸60号(タレホナミ)」品種来歴文書 農研機構 次世代作物開発研究センター ・ 確認日 2026-10-01
  10. イネ品種データベース検索システム「東北58号(ナツミノリ)」品種来歴文書 農研機構 次世代作物開発研究センター ・ 確認日 2026-10-01
  11. イネ品種データベース検索システム「東北63号(ヤマセシラズ)」品種来歴文書 農研機構 次世代作物開発研究センター ・ 確認日 2026-10-01
  12. イネ品種データベース検索システム「北海103号(水稲農林42号)」品種来歴文書 農研機構 次世代作物開発研究センター ・ 確認日 2026-10-01
  13. イネ品種データベース検索システム「中国糯19号(ヤマフクモチ)」品種来歴文書 農研機構 次世代作物開発研究センター ・ 確認日 2026-10-01
  14. イネ品種データベース検索システム「ふ系62号(ムツコガネ)」品種来歴文書 農研機構 次世代作物開発研究センター ・ 確認日 2026-10-01
  15. イネ品種データベース検索システム「ふ系19号(水稲藤坂4号)」品種来歴文書 農研機構 次世代作物開発研究センター ・ 確認日 2026-10-01
  16. イネ品種データベース検索システム「中部17号(ミネアサヒ)」品種来歴文書 農研機構 次世代作物開発研究センター ・ 確認日 2026-10-01