名前がつく前と後
品種には名前がつく前の期間があります。 長いものでは12年。その間、同じものが数字で呼ばれ、記号で呼ばれ、やがて名前で呼ばれます。
このサイトが系統図に品種名と地方番号を併記しているのは、このためです。 交配したときの呼び名と、文書を書いたときの呼び名が違う。 品種名だけで系図を組むと、同じものを別のものとして数えてしまいます。
3段階で名前が変わる
水稲農林19号の来歴文書が、それをいちばんはっきり書いています。
昭和9年4月以降は「411」なる仮称名をもって、更に昭和11年4月以降は「北海79号」なる系統名をもって道内主として北部の稲作期間短き地帯にこれが種子を配付し、地方的適否を確め、昭和16年4月「水稲農林19号」なる品種名を付せるものなり。
| 時期 | 呼び名 | 段階 |
|---|---|---|
| 昭和4年 | (交配) | |
| 昭和9年4月〜 | 411 | 仮称名 |
| 昭和11年4月〜 | 北海79号 | 系統名 |
| 昭和16年4月〜 | 水稲農林19号 | 品種名 |
交配から品種名まで12年。
仮称名が数字だけだった時期
| 文書 | 仮称名 | 時期 |
|---|---|---|
| 水稲農林19号(北海79号) | 411 | 昭和9年4月〜 |
| 水稲農林42号(北海103号) | 1735 | 昭和17年〜 |
どちらも北海道農業試験場上川支場です。同じ場所で、同じ付け方をしていた。
農林1号の子一覧には「1718」という名前の行があります(交配組合せは農林1号/農林15号)。 4桁の数字がそのまま名前として残っているものです。
系統名が途中で改称される
昭和14年4月「愛系3号」(後に「あ系3号」と改称)なる系統名を付して
水稲愛子2号の文書です。愛系3号 → あ系3号。 漢字がかなに変わっただけですが、名前が変わったことを文書自身が括弧で補っています。
資料によって系統名が違う
水稲遠野2号は、系統名が資料で食い違います。
| 資料 | 書き方 |
|---|---|
| 来歴文書 | 遠系3号 |
| コシヒカリの両親の子一覧(と ineCode TOK0000030) | と系3号 |
このサイトは文書の書き方を主にし、一覧の書き方を別名に置いています。 どちらかが間違いだとは書きません。資料にある傷とは別の話で、 同じものに2通りの書き方があるというだけのことです。
交配のときには、親に名前がなかった
交配した年と、親に品種名がついた年がずれていると、文書は括弧で補います。
| 文書 | 親の書き方 | 交配年 |
|---|---|---|
| 水稲北陸19号 | 「新88号」(後に「水稲農林1号」となりたる系統) | 昭和5年 |
| ハツミノリ | 「北陸23号」(後に水稲農林21号となった系統) | 昭和16年 |
| テドリワセ・ヤエホ | 「近畿35号」(農林23号)・「近畿34号」(農林22号) | 昭和16年 |
| ミネアサヒ | 「40-11」(後の喜峰・同場稲橋分場育成品種) | 昭和41年 |
北陸19号は、このサイトが持つ農林1号を使った交配のうちいちばん古いものです。 昭和5年の交配で、農林1号が命名されたのは昭和6年。1年の違いで呼び名が変わります。
| 交配年 | 父の書き方 |
|---|---|
| 昭和5年(1930) 水稲北陸19号 | 新88号 |
| 昭和6年(1931) 水稲愛子2号 | 農林1号 |
| 昭和6年(1931) 水稲農林21号 | 水稲農林1号 |
同じ親が、3通りに書かれています。
一覧は、名前ではなく品種の同一性で組まれている
ここがいちばん面白いところです。
農林1号の子一覧に水稲北陸19号の行があります。 その交配組合せ欄はこうです。
磐田朝日3号/新88
「農林1号」という名前がどこにも出てきません。 それでもこの行は、農林1号の子として一覧に並んでいます。
つまりこの一覧は、交配組合せの文字を検索して作ったものではなく、 新88=農林1号という同一性のうえに組まれている。
農林22号の子一覧も同じです。同じ一覧の中で、親が「農林22号」と書かれた行と 「近畿34号」と書かれた行が混ざっています(コガネナミは近畿34号、 アズサは農林22号)。 書き方は揃っていないのに、集め方は揃っている。
自分の文書が無い品種の、名前の対応はどう確かめたか
地方番号と農林番号の対応は、たいていその品種自身の来歴文書で確かめられます。 「昭和5年3月北陸4号と命名し…昭和6年3月更に水稲農林1号と改称せるものなり」のように、 文書が自分の改称を書いているからです。
ところが水稲農林22号(近畿34号)には来歴文書がありません。 農林番号の報告書が電子化されていないので、自分で自分の改称を書いた資料が無い。 このサイトで、名前の対応だけが出典を持たずに残っていたのはこの1組でした。
結局これは、他の品種の文書で埋まりました。
自分について書かれた資料が無くても、自分を親として使った品種の資料が代わりになる。 系統図を横に読む作業には、こういう副産物があります。
このサイトが決めていること
- 系統図には品種名と地方番号を併記する。交配のときの呼び名で引けるようにするため
- 資料が「後の△△」と書いているときは、その括弧も引用に含める。括弧が名前の変わり目を示している
- 同じものに2通りの書き方があるときは、文書の書き方を主にし、もう一方を別名に置く。 どちらかを間違いとは書かない
出典
- イネ品種データベース検索システム「北陸19号(水稲北陸19号)」品種来歴文書 農研機構 次世代作物開発研究センター ・ 確認日 2026-10-01
- イネ品種データベース検索システム「北海79号(水稲農林19号)」品種来歴文書 農研機構 次世代作物開発研究センター ・ 確認日 2026-10-01
- イネ品種データベース検索システム「北海103号(水稲農林42号)」品種来歴文書 農研機構 次世代作物開発研究センター ・ 確認日 2026-10-01
- イネ品種データベース検索システム「あ系3号(水稲愛子2号)」品種来歴文書 農研機構 次世代作物開発研究センター ・ 確認日 2026-10-01
- イネ品種データベース検索システム「遠系3号(水稲遠野2号)」品種来歴文書 農研機構 次世代作物開発研究センター ・ 確認日 2026-10-01
- イネ品種データベース検索システム「北陸45号(ハツミノリ)」品種来歴文書 農研機構 次世代作物開発研究センター ・ 確認日 2026-10-01
- イネ品種データベース検索システム「中部17号(ミネアサヒ)」品種来歴文書 農研機構 次世代作物開発研究センター ・ 確認日 2026-10-01
- イネ品種データベース検索システム「越南6号(テドリワセ)」品種来歴文書 農研機構 次世代作物開発研究センター ・ 確認日 2026-10-01
- イネ品種データベース検索システム「山陰47号(ヤエホ)」品種来歴文書 農研機構 次世代作物開発研究センター ・ 確認日 2026-10-01
- イネ品種データベース検索システム「近畿34号を親とする品種一覧」(全167行) 農研機構 次世代作物開発研究センター ・ 確認日 2026-10-01
- イネ品種データベース検索システム「北陸4号を親とする品種一覧」(全263行) 農研機構 次世代作物開発研究センター ・ 確認日 2026-10-01