採用されるまでの言葉と数字
来歴文書の後半は、たいていその品種を県が採用するかどうかの話です。 育成した側の文章ではなく、入れる側の理由が書かれています。
読んでいくと、採用には言葉の段階があり、 見込みの数字と実際の数字が別に書かれていることが分かります。 品種1件のページでは見えないので、ここに並べます。
言葉の段階
同じ「これから使う」という話が、文書によって違う強さで書かれます。
| 言い方 | 文書 |
|---|---|
| 適するものと考えられる | オバコワセ「宮城県北部平坦肥沃地、岩手県平坦肥沃地に適するものと考えられる」 |
| 採用を検討中 | オバコワセ「秋田県が昭和28年度より奨励品種に採用を検討中」 |
| 採用せんと考慮中 | 水稲農林50号「昭和24年度より奨励品種に採用せんと考慮中の県名次の如し。山形県 宮城県」 |
| 採用の予定 | ワカクサ・ハルカゼ・チヨヒカリ |
| 採用した | ヤマホナミ「大分県では昭和33年度より奨励品種に採用した」 |
オバコワセの文書には県が3つ出てきますが、どれも「検討中」か「考えられる」です。 出口まで書いてある文書と、入口で止まっている文書がある。 このサイトが「採用県」を断定できるのは、語で書かれている分だけです。
見込みと実際
いくつかの文書は、見込んだ面積と、実際の面積を並べて書いています。
| 品種 | 見込み | 実際 | 比 |
|---|---|---|---|
| カガニシキ(北陸36号) | 6,000町歩 | 20町歩 | 300分の1 |
| ワカクサ(越南39号) | 5,000ha | 1,062ha | 5分の1 |
カガニシキは見込みの300分の1でした。 ワカクサは5分の1で、こちらはまだ届いているほうです。
実際の数字が書かれていない文書では、見込みだけが残ります。
| 品種 | 見込み |
|---|---|
| ハルカゼ(関東74号) | 約3,000ha(和歌山県) |
| ミネアサヒ(中部17号) | 900ha(愛知県) |
見込みだけが残っている文書を、実績として読まないこと。 このサイトが「普及した」と書かないのは、そのためです。
配れる種子の量
採用の前に、配る種子がどれだけあるかを書く文書があります。
| 品種 | 種子量 |
|---|---|
| ワカサ(越南15号) | 180リットル |
| ワカクサ(越南39号) | 原種 250kg |
| ミネアサヒ(中部17号) | 系統採種 5kg/普通採種 50kg |
升でも俵でもなくリットルとkgです。 採用を決めても、種がなければ広がりません。
採用の理由に何が書かれるか
収量とは限りません。
病気が出た年に、出た場所で確かめられた——チョウカイ(東北56号)
昭和27年は県北において稲熱病の発生が多く被害も大きかったが、その地方で行われた現地試験において東北56号の安全性が確認された。
試験を設計して確かめたのではなく、災害がそのまま試験になっています。 秋田県の採用理由には、当時の作付が町単位で並びます—— 農林17号19,400町、大国早生5号13,700町、信交190号12,300町、陸羽132号8,500町。 合計5万町を超える面積が、いもち病に弱いという同じ弱点を共有していました。
収量では負けている——チヨヒカリ(東海6号)
収量については、農林8号に比べて、過去5年間の中、2年はすぐれ、3年は劣っている。
それでも強稈・耐病・良質で採用されています。
制度が変わって枠ができた——ワカサ(越南15号)
昭和36年度より、早、中、晩各2品種を産米改良の基幹品種とすると共に、従来の準奨励品種の制度を廃止し、産米改良を重ねた特定地域向の奨励品種を設定することになった。
「比較的適地は狭いが」と書かれた品種が、新しい枠ができたことで入りました。
機械で刈れるかどうか——ミネアサヒ(中部17号)
倒状が多く、機械化適性が劣り、生産安定に支障をきたすようになってきた。
昭和55年の文書です。倒れる品種は機械で刈れない。
人手のピークを崩すため——ワカクサ(越南39号)
平坦丘陵地帯における収穫時期の労力ピークの切崩しの目的で早・中生の優秀品種の選定が強く要望されてきた。
良い品種に寄せると作期が1点に集まり、人手が足りなくなります。 ムツコガネ(ふ系62号)の青森県も同じで、 中生に「全県の8割以上」が集まっていました。
何の何割を置き換えるか——ミネアサヒ(中部17号)
大空の全部、峰光の80%、秋晴の15%、その他品種の60%を代替する品種として
このサイトでいちばん細かい採用計画です。
現地試験の規模
机の上で決めているわけではありません。
| 品種 | 現地試験 |
|---|---|
| ワカクサ(越南39号) | 延75ヶ所(昭和36年度33ヶ所、37年度42ヶ所) |
| チョウカイ(東北56号) | 県内6ヶ所(4連制)+農業改良普及事務所の協力で24ヶ所(2連制) |
田を数十か所借りて、2年かけて確かめています。 そのうえで、見込みの300分の1しか植えられなかった品種もありました。
出典
- イネ品種データベース検索システム「北陸36号(カガニシキ)」品種来歴文書 農研機構 次世代作物開発研究センター ・ 確認日 2026-10-01
- イネ品種データベース検索システム「東北42号(オバコワセ)」品種来歴文書 農研機構 次世代作物開発研究センター ・ 確認日 2026-10-01
- イネ品種データベース検索システム「東北50号(水稲農林50号)」品種来歴文書 農研機構 次世代作物開発研究センター ・ 確認日 2026-10-01
- イネ品種データベース検索システム「越南15号(ワカサ)」品種来歴文書 農研機構 次世代作物開発研究センター ・ 確認日 2026-10-01
- イネ品種データベース検索システム「越南18号(ヤマホナミ)」品種来歴文書 農研機構 次世代作物開発研究センター ・ 確認日 2026-10-01
- イネ品種データベース検索システム「越南39号(ワカクサ)」品種来歴文書 農研機構 次世代作物開発研究センター ・ 確認日 2026-10-01
- イネ品種データベース検索システム「東北56号(チョウカイ)」品種来歴文書 農研機構 次世代作物開発研究センター ・ 確認日 2026-10-01
- イネ品種データベース検索システム「東海6号(チヨヒカリ)」品種来歴文書 農研機構 次世代作物開発研究センター ・ 確認日 2026-10-01
- イネ品種データベース検索システム「関東74号(ハルカゼ)」品種来歴文書 農研機構 次世代作物開発研究センター ・ 確認日 2026-10-01
- イネ品種データベース検索システム「中部17号(ミネアサヒ)」品種来歴文書 農研機構 次世代作物開発研究センター ・ 確認日 2026-10-01